鼠径ヘルニア日帰り手術に必要なチーム医療と手術のエピソード
History of inguinal hernia and day surgery
鼠径ヘルニア手術と日帰り手術 ~1988年からのあゆみ~
チーム結成
三ちゃん農業に家内工業。身内だけで事業を展開する手法はよくあります。
しかし開業医ではなかなか上手く行きません。地域医療診療のみであれば最低限の人数、極端に言えば医師1人で行えます。
1991年開業当時、開業医に対する社会のニーズは多岐にわたりました。ニーズを感じ取り対応していくには、家内工業では難しい時代となってきたのです。
昭和の時代は「医師優遇税制」という魅力的で、診療所の経営者にとっては何ともありがたい制度がありました。開業医は収入の78%が必要経費として認められ、28%に税金がかかる環境でした。
その結果、心あるほとんどの医師は経営を顧みず、医師としての使命感と充実感を感じながら親身の医療を患者さんに提供していました。
私の父は、自宅のお手伝いさんを准看護師として育て、看護師の母親とともに、外来診療、往診、そして手術を行っていました。
家内工業として地域の患者さんのニーズに応え、経営的な事は二の次で、子供も育て、自らも医師としての充実感とプライドを持ち、継続的に学問をしていたことを覚えています。
しかし、診療報酬は2年毎の改定で猫の目のように変わり、診療所ですら受付医療事務が必要な状態になりました。高齢化社会となり医療の必要性は増加の一方となってゆきます。
このような中で開業し、外科医としてのモチベーションを在宅医療に見出だしていました。
在宅医療は医師1人では時間的余裕が作れず、事務手続きには医療事務、看護は看護師、リハビリは理学療法士のスタッフが必要となります。
同時期に「鼠径へルニアの日帰り手術」を開始しました。手術は医師1人でも何とかなりますが、患者さんのニーズに対して満足していただく医療を提供するためには、看護師、医療事務、パラメディカル等々の人材が必要となりました。在宅医療と日帰り手術を同時進行して、なおかつ外来診療を継続して行くためには仕事量を分担し、担当を分けて責任者を作る必要があり、それが「チーム結成」へつながっていきます。
中心となるのは医師ですが、満足していただく「医療サービス」を提供するには、診療所であっても看護師、事務スタッフ、パラメディカルスタッフ(※1)の存在は不可欠となったのです。
パラメディカルとは、クリニックで働くスタッフのうち医師以外を指します。看護師、診療放射線技師、事務スタッフなどのことです。
何もない
チームを結成することは簡単ですが、継続するのは難しいものです。「継続はカなり」。
常に心がけているひと言です。
事を始めたのであれぱ見栄を張ってでもやり続ける、見栄も張り通せれば「実力」となります。
「日帰り手術」と「在宅診療」をテーマとしたことにより、基本の「地域医療」を含め当院の「3大テーマ」が完成しました。
外来診療は医者1人が頑張れば可能ですが、在宅診療は手続き、連絡、処方、物品調達などの仕事があり、医者ひとりでは利用者やご家族の満足を得ることは出来ません。
98年当時、日本の「日帰り手術」は眼科の白内障、整形外科領域の関節鏡検査、形成外科程度でした。外科医の開業は自ずと内科開業へ形を変えていました。
「手術」は局所麻酔下による「オデキ」取り程度であった時代にあえて開業外科医の仕事として「日帰り手術」を3大テーマのひとつに選んだからには、仲間が必要となってきたのです。第1例目の「鼠径ヘルニア外来日帰り手術」は98年7月、その2週間前より毎日、当時の看護部長である横江幸子氏と打ち合わせの日々が続きました。
手術機械、麻酔剤選択、術野の照明、糸の選択、何もかも日本国内にお手本がない中で、暗中模索の始まりでした。
今思えば「良くやったなー」と思えるほど無茶なことだらけでした。
モニター、酸素、自動血圧計‘•ストレッチャー、麻酔機、気管内チュープ、喉頭鏡・・・ないない尽くしで、あるのは縫合セットと移動式無影灯、手術台。
後は「私の勇気と決断、看護師さんの協力と応援、医療事務スタッフの点数計算能力」だけで始まりました。
完璧な手術が出来た理由は何か。
その答えは、「工夫とチームワーク」です。
技術があっても、勇気があっても、決断があっても、「工夫とチームワーク」がなければことは始まらなかったでしょう。
それから足掛け22年目になり、2018年11月までに「鼠径ヘルニア手術」は9700例を超えるまでになりました。
私ひとりの力では空回りしてしまいます。継続するには、看護師、医療事務職、放射線技師、コメディカルスタッフをひとつの「チーム」と認識することが必要です。チ—ムで喧々諤々の議論を続けた結果、「鼠径ヘルニアの日帰り手術」を安全に行える、チームワークが形成されたのです。